保育園に必要なリスクマネジメント|SHELLモデルで事故防止マニュアルの作成

保育園に必要なリスクマネジメント|SHELLモデルで事故防止マニュアルの作成

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2020年10月2日

平成28年3月に「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の 対応のためのガイドライン」が制定され、保育所での危機管理や事故防止対策の方法が、細かく示されました。保育所における死亡児童数は年々減少傾向にあるものの、重大事故を含め残念ながら毎年発生しています。「子どもが成長していく過程を支える」という保育所の機能と役割のなかで、怪我が一切発生しないことは現実的には考えにくいものです。そうした中で、保育所における事故、特に死亡や重篤な事故に至らないためには、日頃からの予防と事故後の適切な対応を行うことが重要です。
(参考:施設等における事故対策の経緯について (平成30年2月現在)

保育所で起きている、重大事故の実態

日々の教育・保育においては、乳幼児の主体的な活動を尊重し支援する必要があります。保育施設は行政指導のもと、最低基準を遵守し、専門性を持った保育士が保育を行っています。
しかし、平成31年1月1日から令和元年12月31日の期間内に報告のあった、教育・保育施設等で発生した死亡事故や、治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等は、1,744 件(対前年+103)にのぼっています。
平成 31 年 1 月1日から令和元年 12 月 31 日の期間内に事故報告の集計
特に負傷等の報告は 1,738 件(対前年+106)あり、そのうち 1,401 件〔81%〕(対前年+71)が骨折によるものです。
事故の起きた場所としては、認可保育所の室内は387件が1位となっており、次いで認可保育所の屋外が383件となっています。睡眠中の死亡事故は、一時預かり事業で1件、認可外施設で3件の計4件発生しています。
 
【出典】
「令和元年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について/内閣府子ども・子育て本部

乳幼児期の事故の実態

令和元年の厚生労働省の人口動態調査によると、令和元年の死亡数は、0〜4歳のが2,319名、5〜9歳が379名でした。また、2019年の乳幼児の主な死因の構成では、不慮の事故は男児5.2%(女児4.1%)、乳幼児突然死症候群では男児4.8%(女児3.7%)となっています。
不慮の事故による死亡者数が、乳幼児突然死症候群の死亡者数を上回っています。乳児が不慮の事故で死亡する場合、居間での事故が多く、誤飲や窒息、火傷、転落などが原因となっています。
乳幼児期の事故の実態

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また、2016年の子どもの死因上位5位の統計においては、不慮の事故は、0歳で第4位(73人)、1〜4歳で2位(85人)、5〜9歳で2位(68人)でした。(不慮の事故には、交通事故と自然災害は含まれない)2016年は、いずれも「溺死」「窒息」において、リスクが高くなっていました。
 
【出典】
平成30年版消費者白書 第1部第2章第1節 子どもの事故を社会全体で防ぐ/消費者庁
【pdf資料】平成30年版消費者白書 第1部第2章【特集】子どもの事故防止に向けて/消費者庁

事故防止に必要なリスクマネジメント

人々の価値観が多様化し、様々な感染症が流行する現代において、子どもたちを預かる保育園には絶対的にリスクマネジメントは必要です。詳しく見ていきましょう。

リスクマネジメントとは

リスクマネジメントとは、想定されるリスクを日頃から管理し、不利益を最小限に止めることです。万が一の事故を未然に防ぐことはもちろん、職員が安心して働くことにもつながります。万が一事故が起きた場合でも、リスクマネジメントを行っていることで、説明責任を果たし、園を存続できなくなるなどの最悪の事態を防ぐことができます。
また「リスクマネジメント」は担当者やリーダー、責任者だけが取り組むものではなく、園に関わる職員全てが、立場や経験にかかわらず徹底して行うことが必要です。保育施設は「組織」であり「福祉施設」としての側面も持っています。保育士一人の思い込みや油断、軽率な行動によって万が一の事故や損害が生じた場合、施設としての社会的信頼を失うことはもちろん、保護者や地域の人々の不安が招く憶測や噂などによって、閉鎖に追い込まれることもあるからです。過去には、死亡事故を起こした園の保育士や園長が、命を失うということもありました。
 
リスクの大きさや種類に関わらず、あらゆる面のリスクを体系的に捉え、事前に対策を取り、日常的に行動していくことが不可欠といえます。

リスクとハザード

危機管理には「リスク」と「ハザード」の2つの視点が必要です。

リスク:危険度。予測できないこと。組織に影響を与える不確実なもの。
ハザード:潜在的な危険。リスクをもたらす可能性があるもの。

 
ハザードを見極めることで、リスクを評価する第一歩になります。事故や怪我が起きた場合、その原因となるハザードを取り除くことによって、再発を防ぐことができます。

リスクマネジメントのプロセス

リスクマネジメントを行うには6つのプロセスがあります。

  1. ① 把握する 情報を集めリスクを発見する
  2. ② 分析する リスクのレベルを分析する
  3. ③ 評価する リスク対応の優先順位を決定する
  4. ④ 対処する 対策を立案する
  5. ⑤ 実行する 対策を実行する
  6. ⑥ 再評価する 

 
保育施設においてのリスクの発見は「実際に事故や怪我が起きたところ」からスタートしていることが多いです。ヒヤリハットや事故報告書をもとに、自園の傾向を分析し、環境と人材育成を見直すことも、リスクマネジメントにつながると言えます。

園で活用されている危機管理

園で活用されている危機管理
 
保育園ではハザードマップやお散歩マップなどを作成し、危機を避けるための手立てとしている園もあります。子ども、保護者への安全教育を行うことで、保育士自身の危機管理への意識を高める方法もあります。
主に多くの園で活用されている危機管理は、マニュアル・ヒヤリハット・チェックリスト・自己評価の4つです。詳しく見ていきましょう。

マニュアル

マニュアルは手順書と表されます。簡素化された中で、実用的であることが必要です。「いざという時」に行動できることが前提条件です。そのため緊急時の役割分担や、窒息児の対応など、図式化し、各保育室に貼られています。また、一度作ったら完成ではなく、作ったところから周知・実行していくことが重要です。子どもも環境も制度も変化しますので、一年に一度は内容を見直すこと、半年に一度は職員間で共有することを習慣にしましょう。

ヒヤリハット

ヒヤリハットや事故報告書についても、保育施設に普及しているものですが、書面にする基準は園によって様々です。軽微な消毒や医療的な手当てをした場合でもヒヤリハットや事故報告書に記載する園もあれば、通院や園内会議を開く程度の怪我や事故が起きた場合に記載する園もあります。
ヒヤリハットの目的は、事故の再発防止はもちろん、園内で共通の認識を持つこと、職員の危機管理に対する意識啓発を行うことです。
その前提に立つと「同じ事故が起きる可能性があるかどうか」「年齢や子どもの発達によっては重大事故になったかもしれない」という基準を持つことも、一つの方法です。

チェックリスト

チェックリストには2つの種類があります。一つは、SIDS予防やアレルギー食品の解除など、記録用のものです。そしてもう一つは、園庭の遊具の劣化や、室内環境の安全基準などの点検用のものです。
いずれも、チェック項目には「守ってほしいこと」や「注意が必要なこと」が挙げられていますので、チェックする際は項目を丁寧に読み込み、違和感があった場合や項目の整理が必要な場合は変更を提案する癖をつけましょう。

自己評価の特徴

自己評価は自分の仕事への取り組みやスキルを確認するために有効です。園で作成する場合、職員に徹底したいことを項目に入れましょう。安全管理が弱いと感じているのであれば「子どもの心身の状態を正確に捉えることが、保育中の事故防止につながると考えているか」「安全対策のために、日頃から施設内外の安全点検に努めているか」などの項目を入れ、保育士自身が自分の保育を振り返る機会を作ることもできます。

SHELLモデルを活用したマニュアル作成

SHELLモデルとは

SHELLモデルは、「ヒヤリハットや事故の原因を探るために、5つの要因に分けて分析する方法」です。SHELL分析は、ヒューマンエフェクラー工学をもとに作成されたもので、KLMオランダ航空フランク・H・ホーキンズ機長が提唱しました。

S=Software(ソフトウェア) マニュアル、規則など指針となるもの
H=Hardware(ハードウェア) 機器や機材、設備、施設のつくりなど
E=Environment(環境) 温度や湿度、照度など
L=Liveware(当事者) 事故などのおそれがある事態に関与した本人
L=Liveware(当事者以外) 当事者以外のチーム、同僚など

これらの視点を活用することで、事故を客観視し分析を図ることで、事故の事後対応だけでなく、未然に防ぐことや潜在的な事故を引き起こさないことにもつながります。
SHELLモデルを活用したマニュアルを作成することで園内の物的・人的・空間的環境を網羅することができます。基本的な観点がわかりやすく示されているため、変化に富んだ現代においても対応できるマニュアルとなります。

医療現場でも活用されているSHELLモデル

保育施設以上にマニュアルの整備や安全管理が徹底している医療現場でも、SHELLモデルは活用されています。SHELLモデルは客観的画一的な評価ができるため、課題・問題点を明らかにしていくことが可能であるため、改善点を発見しやすいです。医師・看護師・薬剤師・理学療法士などの専門職が多く働く現場において、それぞれの視点で起こりうる問題を分析するためには、有効な方法だと言えます。

SHELLモデルを活用するために必要なこと

SHELLモデルを活用するためには、現場の実態把握を丁寧に行うことが必要です。複数の職員で作成することで、一人では見つけられない要因を知ることにもつながるため、園内研修やリーダー会議などで時間をかけて取り組むことをお勧めします。

マニュアル作成のポイント

マニュアルは存在することよりも活用されていることに価値があります。0から作成するというよりも、モデルになるものを用意したり、実態に沿って手順書を作り、修正を加えてマニュアル化するといった方法もあります。いずれにせよ、新人さんからベテランまで、全職員が理解でき、活用するために「言葉」と「図・写真」などを用いましょう。

まとめ

今回は、保育園に必要なリスクマネジメントについて、SHELLモデルで事故防止マニュアルの作成とともに記載しました。難しいことのように感じ、苦手意識を持ちやすいものだからこそ、必要性を理解したうえで「わかりやすい」「使いやすい」「変更していく」マニュアル作成に努めていきましょう。