保育園に必要なリスクマネジメント|SHELLモデルで事故防止マニュアルの作成
災害大国と言われる日本では、台風・地震・津波などの自然による災害も多く、避難訓練においても様々な想定が必要です。今回は、保育園における防災意識の実情をもとに、意識を高めるための災害別リスクに備えた避難訓練マニュアルについて詳しくみていきましょう。
保育園では、児童福祉法と消防法により避難訓練の実施が義務付けられています。児童福祉施設最低基準(第6条)に「少なくとも毎月1回は各種災害を想定した避難訓練を行わなければならない」と規定されています。
保育園における防災訓練は、主に地震・火災・風水害・不審者を対象にしています。特に、地震・火災の避難訓練が多く行われています。起きる割合が高いことと、実際に起きた場合「自分たちで一時避難しなければならない災害」であることが考えられます。
避難訓練の内容としては、警報を鳴らして実際に避難経路を移動する訓練、消防署や警察の協力を得て行う「防災・安全教室」、紙芝居や絵本による日常的な教育などが行われています。
それぞれの園が、立地条件・職員配置の状況・園児の年齢によって、年度毎に見直し工夫を凝らして実施しています。
出典:幼稚園・保育所・認定こども園における災害マニュアルの実態
地震に対するマニュアルは82.5%の保育所が整備しており、それ以外の災害については、地震の半数以下です。
マニュアルの内容や活用については、自園の状況に即した内容で見える場所に貼ってある場合もあれば、モデル的なマニュアルが棚にしまったままでいざという時に活用することが難しい場合もあります。
保育士の防災意識の高さについては、働いている園での取り組みや保育士自身の経験によって左右されます。「保育士が少ない時間帯」や「想定していないこと」「新人保育士が担当」であっても、安全に避難できる体制が必要です。
防災に対する意識が高く職員への教育を徹底している園の場合、たとえ新人保育士であってもマニュアルをしっかりと意識しています。
保育士の防災意識はいろいろな要因によって変化するので、個人のやる気や意識だけに頼ることなく、マニュアルの作成・周知・徹底・確認を通して一人ひとりの保育士が安心して保育に取り組める状況を作ることが大切です。
保育園では、限られた保育士人数の中で子どもたちの安心・安全を確保しています。その上で、質の高い保育を行うことが求められているため、保育士は普段から防災意識を高めておくことが必要となります。災害別に詳しく見ていきましょう。
近年の台風や集中豪雨は、短時間で災害に至りやすい傾向があります。特に頻発している豪雨災害に対する安全管理は、保育園にとって喫緊の課題となっています。床上浸水などの被害を受けた保育園については復旧に半年以上時間がかかり、代替えの保育施設で応急保育が行われている場合もあります。崖のそばや山間地域、氾濫しやすい川があるなど、保育園の建っている場所によって災害に遭うリスクが大きく変わるため、自園の立地条件や、これまでの災害の歴史などについても知っておく必要があると言えます。
災害の起きた場所・範囲・時間帯・天候や季節(気温)によって、避難訓練の方法が変わります。自園の地形や地域のこれまでの被災状況をもとに、想定されるパターン別の避難訓練を行いましょう。
【例】
・台風の時期 / 豪雪の時期
・日中の保育時間内 / 夕方の送迎の時間帯
・市町村の一部の場所で起きた場合 / 広範囲の災害で行政機関が動かない場合
□ 臨時休園等の基準・対応について記載すること
□ 地域のハザードマップ・災害事例・避難訓練の情報を活用し、園の周辺状況を共有すること
□ 市町村の方針やニュースを朝礼などで周知する仕組みを作ること
地震は体験してみないと実感が湧きにくい災害であるため、揺れを察知した瞬間に戸惑ってしまい行動を取れなくなることもあります。突然やってくることを、園児にしっかりと認識させた上で、事前の対策をしっかりと取りましょう。揺れに対する「恐怖」や「驚き」により動けなくなったり、泣いてしまうことも想定しながら、人員配置や避難経路を検討することも必要です。安全な避難経路はもちろん、揺れている間に子どもたちが身を隠すことができる環境を確保することも重要です。職員間の連携を図り、すべての園児を安全に避難させることが大切です。
避難訓練方法については、3つのタイミングで分けて確認しましょう。
まずは身の安全を確保する
丈夫なテーブルや、物が落ちてこない・倒れてこない・移動してこない空間に身を寄せる
火の元の確認と初期消化
物やガラスの破片などを確認し、怪我しない方法で避難する
扉を開け、出口を確保する
門や塀など倒壊の恐れのあるものに近づかないこと
火災や津波なども想定し、確実に安全な場所に移動すること
人数と、怪我の有無などの確認
正確な情報を把握し、正しい行動をとること
重要書類や、避難用の持ち出し袋の用意
避難の前に安全確認をすること
□ DVD・映像・画像など、目に見える形で実際の保育園の避難の様子を確認すること
□ 園内の危ない場所(窓ガラスのそば・倒壊しやすい場所など)を可視化し、避難経路が確実に使えるようチェックリストを作ること
□ 日頃から正しい行動を取れるよう、クラス内やリーダー間で定期的に正確な情報を共有できる状況を作ること
東日本大震災では、行方不明も含めた犠牲者が18,000名を超えました。保育所関係においては、岩手・宮城・福島の東北3県で行方不明を含む114名の園児が犠牲になっています。しかしながら、保育中の犠牲者は3名のみです。これは、保育園において様々な災害を想定した避難訓練が定期的に行われてきた成果とも言われています。
津波は、地震が先に起きることやニュースなどで事前に警報が出ることがほとんどです。そのため、安全な避難先を複数確保しておくことや、場面に応じた避難方法を徹底しておくことで、命を守ることが可能となります。園長や主任保育士などの管理者がいない場合でも、的確な判断ができるように、方針の徹底とわかりやすいマニュアル作成がポイントとなります。
3歳以上の年齢の園児は、配置基準で考えても「自分の足で避難する」ことが前提となります。普段から、集団行動が苦手なお子さんやパニックになると言葉が入りにくいお子さんほど避難訓練を行い、事前に知識を持っておくことが大切です。
津波の規模によっては大掛かりで距離があることも想定されるため、地域で協力してくれる人を普段から募っている園もあります。また、津波は地域一帯が被災するため、レスキューや物資などが届くまでに時間がかかることもあります。安全に逃げることはもちろん、災害発生後2〜3日は園児が安全に暮らせるよう「設備や備品の備え」「非常食の調達」「おむつなどの衛生用品の準備」なども必要です。
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□ 東日本大震災後には様々な書籍やDVDが発行されています。それらをもとに「自園に合ったマニュアル」を、現職員で作成し直すこと
□ それぞれの年齢に合わせた避難の方法・子どものタイプによる声かけ・保護者が迎えにこなかった場合など、細かい内容で作成すること
□ 保育士自身が恐怖で動けなくなったり、家族が被災したりすることも想定したマニュアルを作成すること
□ 「自分の身に起きるかもしれない」というイメージを持ってもらうこと
参考資料:「東日本大震災被災保育所の対応に学ぶ」 ~子どもたちを災害から守るための対応事例集~
近年では保育施設で「業務用電磁(IH)調理器の電源スイッチを入れたまま放置しその場を離れたため、時間の経過とともに鍋の中の天ぷら油が過熱したため出火した」という事例があります。保育園では、毎日給食を調理されていることから火災の発生リスクが常にあります。園内には防火管理者を置くことが義務付けてあり、指導監査でも防炎カーテンの設置や消化器の位置、火災報知器の点検に対するチェックなど細かく確認されるため、職員の意識も高くなりやすい災害です。また、「給食室」からの出火を想定されていることが多く、子どもたちにとっても比較的イメージしやすい災害と言えます。しかし、給湯室以外にも様々な火の元があることを想定しておきましょう
火災の場合、気をつけることは「火」「煙」「火の粉」そして「火災による倒壊」です。
火の元は給食室である場合が多いですが、それ以外の可能性も考えた上で、いくつもの避難経路で訓練しておくことは重要です。
また、園児自身が落ち着いて避難するために、普段から『お・か・し・も』を合言葉に、避難訓練を行うといいでしょう。
特に、乳児から2歳児までの複数担任のクラスでは、子どもの避難に加え、準備するものが増えます。避難袋の用意、避難車やおぶい紐を持ってくる、子どもにバスタオルや毛布、帽子などを被せるなど、さまざまな役割を訓練しておくことで、保育士が欠けていたとしても落ち着いた行動をとることができます。
また、乳児クラスと給食室が近くにある場合注意が必要です。自分の足で避難できない子どもたちと出荷元が近くなるため、避難経路や職員配置、避難後の待機場所などに配慮する必要があります。安全な場所にいち早く避難すること、天候や気温によって配慮することが変わることも念頭に入れておきましょう。
3歳以上児のクラスでは、園児同士でぶつかることや、雑踏の中で違う行動をとってしまうことも想定されます。普段から、保育士の話をしっかりと聞く態度を育てておくことも、安全な避難につながるといえます。
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□ 年度やクラス配置が変わったり、新しい園児が入ってきたりするたびに、安心安全な避難経路と役割分担を確認・修正すること
□ 避難訓練後、指示や確認が的確だったか、園児が落ち着いて避難できたかを確認する項目を設けること
□ 普段から風向きや風の強さなどについて意識し日誌へ記載すること
防災意識は何かあったときだけ一時的に上がっても「命を守ること」にはつながりません。毎日通う保育園だからこそ、日常生活の中でできる意識を高める工夫ができます。具体的にみていきましょう。
年間を通して、日本中のどこかで何かしらの災害が起きています。災害の種類に限らず、訓練だけで終わらせずに改善策を講じることは必要です。
「避難訓練に関するマニュアルの見直し」や「2次災害を防ぐための、お迎えのお願いに対する判断」など、定期的な会議を通して園の方針を明らかにし、防災意識を高めていきましょう。
どの災害においても、共通している事項もあります。
共通事項の把握を行った上で、災害別の避難訓練に取り組み、安心安全な保育を実現していきましょう。