【選ばれる保育園の条件】保護者から人気の幼稚園・保育園になるためには
「ドキュメンテーション」という記録法を、保育雑誌や研修で、頻繁に耳にするようになりました。書籍もたくさん出ており「子どもを理解する上で有効な方法」ということは、保育業界の中でも常識になりつつあります。そのような中「今までの記録や書類との違いについては、よくわからない…けれど今更聞けない」という保育士も多いようです。そこで今回は、気になる「ドキュメンテーション」についての全体像と、作り方について学んでみましょう。
ドキュメンテーションの作成にあたっては、第一に、保育士が日々の子どもの姿を丁寧に見つめることが必要となります。子どもの姿から「子どもの興味・関心」について探り、予想を立てることで、保育士自身の専門性と視点が育つことも、ドキュメンテーションの特徴の一つです。
ドキュメンテーションは、イタリアのレッジョ・エミリア市の幼児教育で生み出されました。レッジョ・エミリア市の幼児教育は、1991年にアメリカのニューズウィーク誌で「最も革新的な幼児教育」として取り上げられ、世界中からの注目を集めました。30年近くたった今では、幼児教育者にとって学ぶべき教育法の一つとして知られています。
ドキュメンテーション発祥の地、レッジョ・エミリア教育では、長期にわたり1つのテーマを掘り下げる「プロジェクト」を立ち上げることがあります。
「プロジェクト」のテーマは子どもたちの話し合いで決められます。「プロジェクト」が進む中で、子どもたちは自らの方法とタイミングで、工作をしたり、調べ物をしたり、実験をしたりします。子どもたち同士で話し合いがしやすいように、1つの「プロジェクト」を4~5人のグループで実施することもあります。大人が決めたグループではなく、興味によって集まったメンバーで「プロジェクト」を進めることもあります。
「ドキュメント」ではなく「ドキュメンテーション」と名付けられているのは「変化することが前提であり、常に現在進行形である」ことが理由です。
「子どもが何を学んでいるか」や「子どもと保育士の相互作用での互いの育ち」など、常に変化が起こるものなので、継続的な記録が必要です。子どもの主体性を重視した保育を進めていくためには、保護者や園、社会の理解も必要となります。
日本の保育園でも、様々な場面でドキュメンテーションが活用されています。
特にプロジェクト型の保育や、自由保育、異年齢保育を取り入れている園では、積極的に活用されています。それらの保育を行っている園では「子どもたちが興味を持ったものを追いかけたり表現したりすることこそが重要である」と考えられているためです。
また、新型コロナウイルスの影響で、行事の開催や園への立ち入りが難しくなったため、保護者が保育の様子や環境を知る機会が激減しています。さらに近年の保育のICT化も相まって、保育現場においてドキュメンテーションの活用が、ますます普及することが予想されます。
これまで活用してきた記録や書類、連絡帳との大きな違いは、大人の視点が中心ではなく「子どもの姿を追いかけていくこと」にあります。
写真を使うことや、子ども同士の話し合いを記録していくことも、これまでの記録との違いです。
それらの違いを踏まえ、対象別にドキュメンテーションの効果を見ていきましょう。
日々の保育は、子どもと保育士のやりとりや、環境構成によって実現しています。ドキュメンテーションの作成によって、保育士間が情報を共有することはもちろん、自分にはなかった視点を持つことにつながります。
事例で見てみましょう。
Aくんの事例を見ると、ドキュメンテーションの存在によって、言葉にしていない自分の興味や願い、学びが園内の保育士や子どもたちに伝わりました。
その結果、Aくんのアリへの興味は具体的な行動につながり、継続的な学びになっていることも伺えます。
もし、ドキュメンテーションを作成していなかったら「アリを見ていた」という一瞬の場面がキャッチされていた程度で、その後の行動や学びには発展していなかったと言えます。
ドキュメンテーションの作成に取り組んでいる園では、子どものことを保育士がよく知っていたり、日頃の保育を見合っていたりします。
ドキュメンテーションの作成によって、子どもの興味や関心についての想像がつきやすくなり、発達の特徴や、遊びの様子、育ちや学びの姿を表現・説明する方法を身につけることにもなります。
ドキュメンテーションを作成してる園の多くは、園内での情報共有に加え、家庭との連携ツールとして活用しています。
日々の保育の中には、数え切れないほどの子どもの発見や興味が存在しています。その度に子どもは心が動き、新たな楽しみを見つけ学びにつなげています。その様子を、写真と言葉、時には図式などを用いて発信する事で、家庭での遊びや保護者の関わり、休日の過ごし方などにも影響が出ます。
ドキュメンテーションを使った家庭との連携は、子どもの姿が見えやすいことや、具体的な遊び方を知らせることになり、保護者支援の一環としても有効と言えます。
ドキュメンテーションを活用した家庭との連携によって、家庭の中に保育が届きます。子どもに関わる大人が、子どもの遊びや興味を通して「共通認識」を持つことで、継続的に遊びを続けることができます。
子どもの興味や関心をドキュメンテーションとして表現し、家庭の中に保育を届けることは、保護者との信頼関係にもつながるでしょう。
では実際に、ドキュメンテーションの作り方を見てみましょう。
ドキュメンテーションを作ることに限らず、保育において「子どもを観察すること」は基本中の基本です。 安心安全に気を配り、子どもを見ることは当然ですが、より注意深く、視点を持って観察をすることが、ドキュメンテーションの質につながります。
子どもが喜んでいる、楽しんでいる、という姿は「感情」や「状況」を見ている状態です。ドキュメンテーションを作成する場合はその先の理由を見つめることが必要です。「なぜ喜んでいるのか」「楽しんでいるように見えるのはなぜなのか」と言った「感情」や「状況」の元になる「興味や関心」に目を向けて観察をします。
ドキュメンテーションの作成に写真は必須です。観察の視点や言葉の巧みさよりも、1枚の写真で見た人の想像力や興味を引き出すこともあります。ドキュメンテーションで活用する写真は、子どもが熱中している場面や調べたもの、作った作品など、多岐に渡ります。子どもの姿だけでなく、活動の流れがわかるような種類の写真を用意しましょう。
ドキュメンテーションは、言葉の表現の仕方にじっくりと向き合うことで、記録としての価値が上がります。じっくり観察し子どもの興味を察知するように努めると次のような表現になります。
ドキュメンテーションを作成した場合は、園内で共有する事をお勧めします。園によっては職員室やクラスの部屋に掲示していたり、定期的にお互いのドキュメンテーションを見合って、違う視点を伝え合う研修を行なっていたりします。
ドキュメンテーションを活用して保育を共有することは、子どもの姿を園全体で見るということにもつながります。
ドキュメンテーションの作り方は、園によって様々です。写真の種類や言葉の用い方、観察の視点など、それぞれに工夫されています。方法にこだわらず「子どもを観て、新たな発見すること」を楽しみながら、自分自身の保育の記録として残すことから始める場合もあります。ドキュメンテーションの力を借りて、子どもの可能性と自分の保育力を高めていきましょう。